三海通を受験し、ほぼ合格*0した。
*0: 無線工学以外(後述)
何故
特にクリティカルな(ry
一陸技に合格し、科目合格の恩恵に手っ取り早く預かりたかったため。また、"無線試験脳"のうちに取れる資格は取っておくかという気持ちもあった。
経歴
詳細は一つ前のエントリを参照いただきたい。
関係するところだけ簡単に書くと、申込当時は夏の一陸技に合格して免許到着待ちの状態であった。
また英語の試験もあるので、それについても触れる。英語について筆者はかなり苦手意識を持っている。大学1年の最初に受けたTOEIC(L&R)テストは420点で、ほぼ鉛筆転がし状態であった。というのは言い過ぎであるが、当時なりに対策してこの点数だった。研究や仕事に必要だったこともあって勉強した結果、事前対策無しの寝起きで715点というのがベストスコアである。文章はそれなりに読めるようになったと思うが、依然として英会話には苦手意識がある。
学習計画
三海通は無線工学、法規、英語、電気通信術の四科目で構成される試験である。このうち無線工学については、申込時点で一陸技の合格が出ていたため受験を放棄した。厳密には一陸技の従事者免許が発行されていない状態であり、申込時点で科目免除の申請をすることができないため、無線工学も受験・合格しなければ直ちに合格とはならない状態であったが、後述する全科目免除申請の仕組みを利用することにして試験対策を行わなかった。
よって、法規、英語、電気通信術の三科目を受験科目に据え勉強することになった。
勉強方法
法規については、いつも通りの過去問周回を二週間前から実施した。あまりにワンパターンで合格できるので、この方法はもはや無線従事者法規試験標準学習メソッドとでも言うべきであろう。内容は国内電波法・施行規則のほか、GMDSSやITUの無線通信規則に関する内容が加わる。
国際法の部分は勉強していて面白かった。非常通信・遭難通信・緊急通信の項は、"何故か"馴染みの深い部分であった。基本的に無線通信のプロトコルについては全て覚える必要があるのだが、脳内でイメージを組み立てなければ覚えることが難しく、実業務のイメージが無い筆者にとっては非常に苦しく感じる部分である。にもかかわらず、まるで実際に通報を行った経験があるかのようにスッと脳内に落とし込むことができた。これも全てレバノン料理と真水のおかげである。
英語については、直前に過去問を数回分実施したのみで特段対策はしなかった。他の科目と傾向が異なり、過去問の使いまわしがほぼ無いらしいこと、リスニング試験対策が大変*1なことが理由である。TOEIC700点あれば無線の国家試験くらいは何とかなるやろ…という見積もりもあった。
上記二科目と比較すると、電気通信術は最も非日常的な科目であろう。無線従事者でも軍属でもないのに、日常的にNATOフォネティックコードで会話している人間がいるとすれば、とんでもない奇人である。筆者はアマチュア無線を齧っていたので自分のコールサインくらいは言える状態であったが、それ以外はほとんど知らなかった。一方で、実際の送受話試験では100文字/2分を送らなければならない。これは1文字1.2秒程度のスピードであるが、実際に行ってみると想像よりずっと困難であることに気づく。まして、うろ覚えの状態では到底クリアすることはできない。この時点で、かなりの訓練を行わなければならないことが判明した。素人同然の状態から、アルファベットを見ただけで即座にそのフォネティックコードを諳んじることができるようにしなければならない。筆者はまずフォネティックコードを順番に全て覚え、それから日常的に目についたアルファベットを全てフォネティックコードで読み上げるという訓練を一ヶ月程度続けた。その結果、なんとか1分間に80文字程度のスピードで送話できるようになった。アルファベット100文字をランダムに生成するアプリで2分以内の送話という訓練を繰り返すことで合格圏に達することができた。
当日
試験日は24/9/12-13、会場は一陸技と同じTOC有明だった。4階の一部屋に200人弱が集まって受験していた。1日目は午前が無線工学で午後が法規、2日目は午前が英語で午後が電気通信術。1日目は無線工学は受けず、午後の法規から有明入りした。特に悩むこと無く途中退出開始直後に退室。
2日目の英語はまずリスニング(英会話)、その後筆記という順番で実施された。リスニングに関してはところどころ海事関連の専門用語が入るくらいで、大枠はTOEICのpart4そのものでありさほどの困難は無かった。英文は極めて平易で、TOEICのような引っ掛け文章もなく、中には知っていれば音声を聞かずとも回答できる問題もあり、勘と知識があればTOEIC450点程度(リスニング225点程度)でもクリアできるのでは無いかと思われる。困難を挙げるとすれば多くの人が嘆いている訛りであろう。巷ではオーストラリア訛りともオランダ訛りとも言われる、聞き慣れた綺麗なアメリカ英語とは似て非なる英語は慣れるのに時間がかかった。音質と相まって聞き取れない箇所もあり、気を取られないように努めた。筆記については、高校英語の長文読解がイメージに近いと感じた。個々の単語が分からずとも、全体を読めば流れを理解できる文章になっており、そこから設問に回答するというやり方でも十分回答できる問題になっている。時間はかなり余裕があるので時短テクなどを考慮する必要は無いように感じた。
問題の電気通信術である。電気通信術は更に欧文暗語の送話・受話、直接印刷電信の3つに分かれる。試験では、まず集合形式で受話が行われた。実施形式は英語のリスニングと同様、会場のスピーカーからCD音源が流れるので、それを聞き取って用紙に記入する。筆者は特に受話についての対策を行わずに本番を迎えたが、いざ始まってから余裕が無いことに気づいた。ここ数年長文をペンで紙に書くということをしておらず、100文字を2分で書き取るということすら怪しい状態で、更にフォネティックコードを聞き取り、わずかな時間でアルファベットに変換し、それを紙に書き、書いている間に次のフォネティックコードを聞き取る…という作業をぶっつけ本番で行うことは相当無理があった。とはいえ試験は始まっており、それを考えている暇も無く、できることはただ遅れないように間違えないように、ひたすら書き取るだけである。そうして地獄の2分間が終了した。ある意味火事場の馬鹿力で乗り切った。一度でも練習しておけば焦らずに済んだかもしれない。筆者はブロック体で記入したが、WhiskeyやVictor、Uniformなどで最後に上に線を引く癖があり、これにかかる時間が地味にキツかった。試験では筆記体などと混ぜて書いても問題ないので、必要に応じて練習することをおすすめする。
それが終わると直接印刷電信と送話の試験になる。これらは別室で個別の試験となる。呼び出しは受験番号順で、筆者はかなり後ろの方の番号だったため、200人近く待つことになってしまった。2時間くらい待っていたような気がする。待合室では何故か携帯を触ることを許されなかった。誰かが何故かと聞くと「一応試験会場なので」とのことで、風紀や品位(試験項目上のではなく、一般的な)以上の理由はないと思う。もっとアグレッシブな表現をすると、「国家試験に来ているのにスマホで遊ぶなんてあり得ない」という試験官の主観による判断だと言っても差し支えないと思う。非常に迷惑な話である。送話の練習アプリがスマホに入っていたのに、はっきりしない理由でそれを取り上げられ、かなり不満であった。かといって今更参考書を開いて勉強する項目もなく、大半は机に突っ伏して寝ていたと思う。受験番号はおそらく試験を申し込んだ順になっているため、これが嫌な場合は申込受付の開始後早い段階で受験申込を行うことを推奨する。
肝心の試験であるが、まず直接印刷電信はただのタイピング試験である。順番が来ると試験官にPCの前に座るよう促される。PCは確かNECのVKT16/Xあたりで、15インチか17インチくらいのテンキー付きノートPCであった。画面上では無骨なUIの特製アプリが全画面で立ち上がっており、基本的に試験官と画面の指示通りに打ち進めれば完了するようになっている。まず練習するかを選択する。結果的には練習など全く不要なのだが、一応しておくに越したことはない。スペースが△で、改行が↵で表示されていることに気をつけるくらいで、大したことはない。お手本のアルファベットは全角大文字だが、特に全角半角を切り替えたり、シフトを押し続けたりする必要はない。その後(練習の前だったかもしれない)、受験番号と氏名を入力して本番がスタートする。こちらも練習と同様で、お手本に示されている内容をその通り打つだけである。間違えると先に進めず、Windows標準のエラー音(ポローンみたいなやつ)が鳴る。採点項目は文章を打ち終えることができたかどうかなので、好きなだけ鳴らして問題ない。また言うまでもなくキーボードは日本語なので、ASCIIユーザにとってはスペースとエンターが遠く、#%*()の位置が違うため多少手間取った。それでも、筆者は試験官に「早いですね」とお褒めの言葉をいただいた。寿司打12000円程度でも輝ける試験、送話直前の身には素直に嬉しい。
直接印刷電信が終わるといよいよ欧文暗語送話である。100文字のアルファベットを淀み無くフォネティックコードで試験官に伝えるのみである。呼ばれたら着席し、受験票の確認と名前の確認があり、試験官から「自分のタイミングで始めてください」と言われる。筆者は一旦深呼吸して「始めます。本文・・・」といった具合で始めた。緊張で声は震えていたが、それでも淀み無く進めていくことができた。途中3箇所程度「え、エクセレイ」などと吃ってしまった。訂正することもできたが、訂正したとてどのみち1点は引かれるので、気にしないで進めることにした。最終的に何かが正の字3画目まで数えられていたのだが、それが品位なのか発音不明瞭なのかまでは確認できなかった。「終わり」の後、試験官から講評*2を聞けるのかと思っていたが、担当いただいた試験官からは「はい、お疲れさまでした」の無声調な一言で呆気なく終わった。
結果
10/3に試験結果のメールが届き、3科目とも無事合格していた。即日一陸技を根拠とする全科目免除申請を出し、現在その返信待ちという状況である。三海通と一陸技で一海通も申請できるが、こちらは実際に従事者免許が手元になければ申請できないため、一旦三海通の免許を発給してもらう必要がある。
あとがき
以上が筆者の三海通の受験記である。現状、業務でこの資格を使う機会は全く無いので無用な資格ではあるものの、海上の安全がどのように担保されているかを知る良い機会となった。過去に起きた数々の痛ましい事件の上に成立したルールから、陸上生物である我々が容易に踏み入ることができない領域でのコミュニケーションの難しさを知り、同時にそれを克服した科学技術の進歩に思いを馳せるきっかけとなった。2024年現在、Starlinkが海上でもサービスを開始しており、海上無線通信士という資格は今後不必要になっていくことが想像できる。しかし、Starlinkも無線通信であることに変わりはない。無線システムが高度化し、帯域も増えてますます重要度が高まる中で、一歩立ち止まって移動体通信の歴史を振り返る機会を得ることができたことに大きな意義があったと感じている。